ふろむだ@分裂勘違い君劇場

分裂勘違い君劇場( https://www.furomuda.com/ )の別館です。

99.99%の人間は人工知能を専門にするのはやめたほうがいい

清水亮氏が
「いま日本に圧倒的に足りないのは人工知能に詳しい人材」
「いま大学三年生の人がいたら、文系だろうが理系だろうが、とにかく今すぐAIの研究を始めたほうがいい。」
と主張しておられる。

 

たしかに、今後数年~十数年で、人工知能技術はありとあらゆるビジネスに入り込み、多くの職場で、それを使いこなせないと日常の業務が回らなくなっていくと思います。

 

ただし、就職面接で「人工知能を使いこなすスキルがあります!」とアピールするのは、「エクセルを使いこなすスキルがあります!」とアピールするのと同じ意味合いを持つようになっていくと思います。

人工知能テクノロジーを使いこなすスキル自体は、ウリにならなくなっていくんです。

 

その理由は、次のとおり:
(1)人工知能のツールやライブラリがどんどん高機能かつ使いやすくなっていく。
(2)人工知能技術を簡単にマスターできる優れた入門書がどんどん出てくる。
(3)そもそも殆どの職場では、定番の人工知能の入門書を読んで、定番の人工知能ツール/ライブラリを使えば、十分に業務をこなせるレベルの人工知能技術しか必要とされてない。
(4)実際に必要なのは、仕事上の課題の切り出しとその解決であって、人工知能は、そのための無数の手段の1つに過ぎないから。

 

つまり、実際に現場で必要とされる人工知能スキルなんて、すごく小さくて薄っぺらいものでしかなくなっていきます。
エクセルが使えないと話にならないけど、エクセルができるから仕事ができるってもんじゃないんです。

 

一方で、「実際に人工知能を使いこなせる人材」自体は、今後もずっと不足すると思います。
なんでかというと、人工知能を使いこなすための土台の部分の能力やスキルを持っている人材が、今後もずっと不足するからです。
その土台とは、数学力、プログラミング能力、英語力、顧客理解、ビジネス理解、課題抽出力、課題解決力、企画力、誠実さ、などです。

たとえば、あるおっさんが
「人工知能の入門書を読んだら、すげー難解なので、読むのに2週間もかかっちゃったよ」
と言ってたとします。
しかしその人に、具体的にどこに時間がかかったのかを聞くと、
「いやー、行列も対数も微分もすっかり忘れちゃっててさー。数学の復習をしながらだから、えらい時間がかかっちゃったよ」
とか、
「『事後確率』とかいう言葉がいきなり出てきてさ。で、ググったらどうもベイズ理論の概念らしいんだわ。で、ベイズ理論の入門書まで読む羽目になっちゃってさ」
と答えたりします。
結局、それって、『人工知能』の理解に時間がかかったんじゃなくって、人工知能の土台になってる『数学』と『ベイズ理論』の理解に時間がかかっただけでしょ?
ベイズ理論なんてずいぶん昔からあるやつだし。

 

また、仕事で重要なのは、高度な人工知能技術を使いこなすことではなく、顧客の課題を解決すること。顧客の課題を的確に抽出するセンスや能力が低いと、見当違いなところに人工知能技術を使ってしまい、「で、それの何が嬉しいの?」って話になる。
適切な課題を抽出し、適切な課題解決方法を見ぬく能力こそが一番重要で、その解決方法の選択肢の1つとして人工知能を使いこなせる、そういう人材こそが、今後求められていくし、そういう人材は、今後もずっと不足し続ける。

そして、「顧客のかかえる課題を適切に抽出する能力」を身につけるには、人工知能を使いこなすスキルなんかより、はるかに時間がかかる。

 

数学もそう。数学力の土台がしっかりできてる人であれば、人工知能なんて簡単にマスターできるけど、そういうベーシックな数学力の土台を固めるには、人工知能スキルよりはるかに時間がかかる。

実は、ビッグデータとかデータサイエンティストとかの話も全く同じで、数学力とビジネス課題抽出能力が十分に高い人なら、ほとんどの会社で必要とされるデータ分析能力を身につけるにはそんなに時間がかからないし、逆に、それに必要な数学力とビジネス課題抽出能力を身に付けるには、すごい時間がかかる。

 

「でも、人工知能を勉強しないより、勉強した方がいい」って?
いや、それよりも、その時間を、人生をもっとちゃんと味わうことに時間を使った方が、投資効果が高いと思います。
「ビジネス課題の抽出能力」って、結局は、顧客の課題の抽出能力だし、顧客ってのは直接的もしくは間接的にエンドユーザにつながってる。エンドユーザの心理をよりしっかり理解できている方が結局は、ビジネス課題の抽出能力も高くなる。
要は、「どれだけ人間ってものがわかってるか?」「商売ってものがわかってるか?」「組織ってものがわかってるか?」という勝負になる。
そうなると、いろんなものごとの楽しみ方、いろんな人の愛し方やつきあい方が、頭ではなく身体で分かっている人が、結局は、一番うまく課題を抽出し、解決できる。
だから結局は、そういう人こそが、どこに、どんなふうに人工知能技術を適用すれば、大きな顧客価値、ビジネス価値を創造できるかを見ぬく能力を持つことになる。
そういう人間こそが、もっとも上手く人工知能技術を使いこなせるようになる。

そして、この能力を身につけるには、人工知能技術などより、はるかに長い時間がかかる。

だから、人工知能の勉強なんて、機械学習の特集をやってる「データサイエンティスト養成読本」とかの雑誌でも読んで、あとは、「深層学習」とかの人工知能の入門書を何冊か読んでおく程度で十分。それが難解で理解できないという人の場合、欠けてるのは人工知能スキルじゃなくて、数学スキルなんだから、人工知能の勉強をやるより、数学の勉強をやった方がよっぽどいい。

そんなことより、もっともっと人生を楽しもう。もっともっといろんな物事を味わおう。もっともっと人間を知ろう。
そっちの方が、よっぽど楽しいしね!