分裂勘違い君劇場の別館

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クリエイティブな人は趣味にお金がかからないというのは本当か?

自分で「文章書いて、絵描いて、楽器を弾いて、プログラム書いて、写真とってれば」それだけで楽しい、という人がいる。
それにはまったくもって同意なのだが「それにカネがかからない」という点には全く同意できない。

私は、趣味で文章を書いたり、写真を撮ったり、サイトを作ったりしているが、ものすごくお金がかかる。

たとえば、私は娯楽小説を書くのが好きなのだが、これって、パソコンとテキストエディタだけでは書けない。
これは「娯楽」小説なのだから、面白くないと話にならない。とことん面白くなるまで、何度でも執念深く書き直す。そのうちに、足りないものが見えてくる。
そして、足りないものを補うには、金がかかることがわかってくる。
想像だけで書いている文章って、やっぱ面白くならない。ジブリの背景の木は、想像で書いたものは1本もないという。全部観察して書いているそうだ。小説も同じで、現実を精密に観察し、登場人物の生々しい人生を創り上げて、存在自体が大きく重く分厚いものにして、それを全部のせた重い一撃が打ち込まれるから、迫力のある戦闘シーンになる。叫ぶ言葉にも魂が宿る。

小説の舞台が現代日本に限定されると話に広がりがない。空間を越え、時代を越え、文化を越えて迫力を出すには、大量の資料の読み込みが必要になる。
そのために、本を買いまくることになる。
もちろん、kindleで買えるものはできるだけkindleで買う。
でも、kindle化されていない本の方が多いから、紙の本で買うことが多くなる。
紙の本は読んだらBOOKSCANでPDFにする。
でも、やっぱり紙のままじゃないと、よく頭にはいらないような本がたくさんあって、そういう本は紙のまま本棚に置いておくしかない。
本棚がたくさんいる。広い部屋が必要。家賃にたくさん金を使う。
小説用の本棚のスペースのためだけに、月に十数万円分余分に家賃を払うことになる。
しかも、1冊何万円もするような本が大量に必要になる。そういう本を買いまくってると、半端無くお金がかかる。

もちろん、 本だけじゃダメ。やっぱ、小説の舞台になる場所まで自分で出かけて行って、登場人物が目にするであろう風景、匂い、湿度、大地を感じないと。それをやるとやらないとでは、そのシーンの魅力がぜんぜん違う。それをやらないと、絶望、怒り、悲しみをのせた渾身の一撃が、なんだか、抽象的で薄っぺらいものになってしまう。生まれてから今までの生々しい人生の時空間が、まるごと拳に乗っかっているから、重い一撃になる。重い台詞になる。その時空間を想像だけで書くと、血が通わない。取材旅行は、登場人物の「血」を創りだすために必要なものだ。
そういう旅行をすると、やっぱり、えらくお金がかかる。普通の町中のホテルに泊まって、観光スポットをめぐるんじゃなくて、取材旅行をするわけだから、いろいろイレギュラーなことをしなきゃならない。例外処理にコストが掛かるのは、プログラミングだけではない。

写真も、やっぱ、金かかる。自分の中のあるイメージの写真を取るために、事前に目的の場所を調べ、太陽との位置関係から撮れる写真の出来上がりを計算し、天気予報とにらめっこして雲がどれだけ出ているかを予想し、電車とタクシーを乗り継いで、その場所に行って、写真を取る。一回じゃ、うまくいかない。風向きが少し違うだけ、風の強さが少し違うだけで、雲の配置が少し違うだけで、薄雲が少しかかってるだけで、理想からは程遠い写真になる。たくさんのお金を使って、同じ場所に、執念深く、何回も何回も通う。納得の写真が撮れる、ほんの一瞬を捕らえるために。

まあ、撮った写真の処理は、昔に比べれば、だいぶお金がかからなくはなった。MacBookProを買って、4Kディスプレイ買って、月額5000円のAdobeCCをサブスクライブしていれば、けっこう満足のいく処理はできる。それでも、「クリエイティブな処理にお金がかからない」と言えるほど安くはない。


もちろん、お金がなくても書ける文章も、撮れる写真もある。でも、実に狭い創作活動だけしかできない。お金がなくても書ける文章だけしか書かないってやっぱり貧しいと思う。お金がなくても書ける文章も、お金がないと書けない文章も、両方、自由に書けること。それこそが、豊かな人生じゃないだろうか。

だから「クリエイティブな趣味を持っている人は、お金をあまり使う必要がない」と言う人を見かけるたびに、その「お金を使わなくてもできる程度のクリエイティブな趣味」、というのが、ほんとにそんなに楽しいものなのか、ほんとに魅力的な趣味なのか、なんだか味の足りないスープを飲んでいるような、微妙な気分になることがあるのです。