ふろむだ@分裂勘違い君劇場

分裂勘違い君劇場( https://www.furomuda.com/ )の別館です。

インターステラーの面白さはどのように創りだされているか?

ネタバレ注意!



























■結末が気になる事態を引き起こし、決着がつかないまま引っ張る
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「人類は滅亡するのか!?」って物語は、もう誰もが飽き飽きしている。
だから、「人類は滅亡するのか?どうなる?」と視聴者をハラハラさせ続け、その結末を、物語の最後まで引っ張る構造はあるにはあるんだけど、それだけじゃ、全然足りない。

なので、「父と娘は仲直りできるのか?どうなる?どうなる?」という、もう一つの「ハラハラ引っ張り要素」を追加することで、補強している。
これによって、物語の展開がどうなるかに、読者の気持ちをひきつけてる。
だから、当然、なかなか仲直りできず、かと言って、決定的な断絶(どちらかが死ぬとか)にならず、引っ張る、引っ張る。最後まで見ないと、結末は分からない。

もちろん、「父と娘の関係」だけでも不十分。あくまで、「人類の運命」と「父と娘の関係」の合わせ技で一本となる。

当然、「父と娘が仲直りできるか?」の緊張感を創りだすために、たくさんの仕掛けが作りこまれている。
つまらない人物同士の関係が悪かったところで、それが仲直りできるかどうかなど、気にならない。
娘と父の両方が魅力的な人物でないと、視聴者は、その二人が仲直りできるかどうかが気にならない。

このため、父と娘を、魅力的にするためのシーンが作りこまれることになる。

娘は、知的好奇心旺盛で、才能があり、かつ、社会の枠から飛び出す逸脱行為をしなければいけない。社会の枠に収まらないほどの才能と魅力を備えていなければならないからだ。しかも、その逸脱行為を正当化するためには、社会の枠の方が悪でなければならない。
なので、その社会が悪であることを描く必要がある。
なので、「アポロの月着陸は捏造だ」と学校で教えるような、腐った学校を描く必要がある。

「人類は滅亡するのか?」のハラハラ引っ張りの方を魅力的にするには、もちろん、滅亡へと向かう人類をリアルに演出する必要がある。
その一つが部屋中に積もりまくってる土埃。砂嵐。あるいは、ビールを飲んでいる時の背景の蚊。燃やされるトウモロコシ畑。

 


■視聴者に予想させておいて、その予想を裏切る
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まず、「宇宙に行く見込みを絶たれた社会」だと視聴者に信じさせる。
これを読者にリアルに感じさせることで、「実はNASAは存続していた!」というシーンがドラマティックになる。

つまり、「実はNASAは存続していた!」を劇的に見せるために、
「アポロの月着陸は捏造だ」と学校で教えるという布石が生きてくる。

つまり、「アポロの月着陸は捏造だ」という要素は、二重に面白さを作り出している。
一つは、「父と娘の関係」の緊張感を引っ張るためであり、もう一つはNASA存続の登場感を演出するため。
こういう風に、1つの基礎要素を、2つ以上のおもしろ要素創出に使う構造が多ければ多いほど、視聴者は、その映画の面白さの密度が濃いと感じる。

砂嵐。積もる土埃。も、「宇宙に行く見込みを絶たれた社会」のリアリティを出して、存続していたNASAを面白く見せる効果を創りだす。いまは、必要とされているのは農業家であって。。みたいな話も同じ。

これと同じパターンの要素としては、ワームホールの向こう側で、先に居住可能惑星を探査していたリーダー格の人が、実は、居住可能でもないのに、居住可能である、とウソの申告をして、人々を騙すところ。
視聴者に、その人を信頼させておき、その人に裏切らせる。これにより、視聴者はショックを受ける。裏切りの効果を演出するために、信頼を作りこむ。

もっと大きいのが、重力を操る方程式なんて、解けるわけないことが分かっていて、それを解いてみせる、とウソをついて、人々を騙していたこと。それに騙されていたことが分かって、視聴者が受けるショックを大きくするために、その人物が信頼に足る人物であるように視聴者を思い込ませる演出が、映画の中で練りこまれている。

 


■まだ解けていないミステリー(謎)を残したまま、引っ張る

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いったい、誰が本棚を使って、モールス信号や2進数でメッセージを伝えたのか?
その謎を残したまま、物語が進む。
視聴者は、「一体誰が?」を知りたくて、物語に注意を引きつけられる。引き込まれる。

 


■デウス・エクス・マキナのロンダリング

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ブラックホールに落ちたら、もう絶対に助からないわけで、そこから助かるには、もうデウス・エクス・マキナしかない。
しかし、デウス・エクス・マキナによる終わり方は陳腐に感じる。
なので、デウス・エクス・マキナを、「自分たちの子孫である未来人」という設定にすることで、デウス・エクス・マキナ臭さをロンダリングしている。
また、「重力を操る方程式を解く鍵が、ブラックホールの中にしかない」という伏線を貼ることで、「ブラックホールの中から、その情報を取り出す」という物語の展開を、予め読者に、必然として受け入れられるように、心の準備をさせておく。これも、デウス・エクス・マキナのロンダリングテクニックの一つ。
つまり二重のロンダリングをしていることで、デウス・エクス・マキナの問題点を解消するテクニック。
ちょっと、野暮ったいけど、けっこう通用しちゃうテクニック。

 

 

■理不尽によって、読者の感情を刺激する
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「アポロの月着陸は捏造だ」という「常識」を人々に強制しようとする理不尽な教育は、読者にストレスを与え、その理不尽さに対する怒りと絶望を掻き立てる。その怒りと絶望のエネルギーによって、視聴者を行動に駆り立てる。ただし、視聴者は物語の登場人物ではないので、登場人物に感情移入することで、自分が登場人物となって行動する。心理的に。これも、読者を物語に引き込むテクニックの一つ。
復讐の物語なんかも、同じ構造のテクニック。読者を怒らせ、読者を行動に駆り立てる。登場人物に自分を重ね合わせて。

 


■人間性に対する洞察と哲学

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正直度とユーモア度をロボットに設定する、というのは、人間性に対する洞察と哲学がある。
多くの人は、正直度100%が美徳だとなんとなく思い込んでいるが、現実にはそんなことはない。この、人々の思い込みを、登場人物の人間関係と、行動によって打ち砕いていく、ここにカタルシスがある。
この人間性に対する洞察と哲学も、面白い物語を作るのに、かなり重要な要素。